2025/12/02 22:24

水産のプロの視点から、一般の方にも分かりやすく「本マグロの養殖」を解説します。この記事では、産地ごとの取り組み、養殖技術の進化、餌、品質、そして市場に届くまでの裏側を紹介します。

■ 本マグロ養殖とは?

本マグロ(クロマグロ)は、回遊力が強く巨大に育つため、かつては養殖が非常に難しい魚でした。しかし技術が進み、日本は世界で最もマグロ養殖の研究と実績が進んだ国となりました。

本マグロ養殖には以下の2種類があります。

1.畜養(養成)

 天然で漁獲した若魚をいけすで育てる方法。現在もっとも一般的。

2.完全養殖

 人工ふ化 → 稚魚育成 → 成魚 → 産卵 → 再び人工ふ化、というサイクル。近畿大学が世界初成功。


■ なぜ本マグロを養殖するのか?

本マグロは高級魚で需要が大きい一方、天然資源は限られています。国際的な漁獲規制が強まるなかで、養殖は以下の理由から必要とされています。

・安定供給が可能

・資源保護につながる

・品質が均一

・天候や漁場に左右されない

養殖マグロは「脂が安定して美味しい」と評価され、寿司店やスーパーでも重宝されています。


■ いけすの構造と管理

本マグロは高速で泳ぐ魚のため、いけすは直径30〜50mの巨大なものが使われます。養殖現場では以下の点が重要です。

・酸素濃度の常時監視

・餌の量・回数をデータ化し成長を予測

・海流や水温の変化に応じていけす位置を調整

・夏場は水温上昇に注意しストレス管理

養殖は科学的かつ緻密な管理の上に成り立っています。


■ 餌(エサ)は何を与えるのか?

従来はサバやイワシなどの生餌が中心でしたが、現在は配合飼料の導入が進んでいます。

配合飼料のメリット

・海の汚れを抑え環境負荷を軽減

・栄養バランスを最適化

・脂の乗りをコントロール

・養殖コストを削減

成長段階に合わせ、生餌と配合飼料を組み合わせる企業も増えています。


■ 養殖マグロは脂が多い?

一般的に、養殖本マグロは脂が多くトロの部分が厚いとされます。

理由は以下の通りです。

・天然ほど激しく泳がないため体脂肪がつきやすい

・栄養価の高い餌を安定供給できる

これにより、スーパーや寿司店での「脂の質が安定して良い」という評価につながっています。

最近は配合飼料の改良により、「赤身が美しい養殖マグロ」も誕生しています。


■ 主な産地:鹿児島・長崎・三重

日本の本マグロ養殖は南日本が中心で、特に以下の地域が有名です。

鹿児島(奄美大島):潮通しが良く水温が安定した国内最大級の産地。

長崎:黒潮と対馬海流が混ざる恵まれた環境。

三重(尾鷲・熊野灘):豊富なプランクトンと強い潮流により魚の体質が良い。

奄美大島の「伝統鮪」のように、30年以上の養殖技術を持つ企業も存在します。


■ 出荷の裏側:餌やりで育て計画的に出荷

養殖本マグロは一本釣りではなく、いけすで計画的に育てられます。

出荷までの流れ

1.カメラやドローンでサイズ確認

2.追い込み・活け締め

3.血抜き・温度管理

4.豊洲市場などへ出荷(-1〜1℃で徹底管理)

養殖は「海の畜産」と呼ばれるほど、科学的で精密な産業です。


■ 今後の展望:完全養殖と技術輸出

近年、完全養殖の生産量が増えています。今後の成長ポイントは以下です。

・生餌から配合飼料への転換

・AI・IoTを活用した自動給餌・水質管理

・地中海・北米への技術輸出

・持続可能で環境に優しい養殖モデルの普及

本マグロ養殖は日本が世界をリードする分野であり、今後さらに拡大していくことが予測されます。


■ まとめ

本マグロの養殖は、海流・水温・餌・技術・物流・市場が一体となる高度な海洋ビジネスです。日本の養殖本マグロは品質・技術ともに世界トップクラス。完全養殖の普及によって、資源保護と安定供給がさらに進むことが期待されています。